01 「 ツイン、対の想いA 」
Pickaback Pick a back
背負う、抱える、抱きかかえる。
兄と妹なのでしょう、きっと。
季節は海辺一帯に溢れています。
陽射しはおだやかに歌い、海風の楽しげなつぶやきまで
聞こえて来そうな、光と色彩のアラベスク。
少年の瞳は、濡れた砂の上をやわらかく見つめます。
引き波がこしらえた鏡に映るのは、遥か上の青空と、
こんなにも近しい二人の姿。
湿った砂に足跡を残していく、大きめの木靴と、
脇の下でのんびり振り子をしている、小さな木靴。
少女はどこか楽しそうです。
信頼、絆なのでしょう、そして、
世界はとっても軽やかと、感じているのかもしれません。
お兄ちゃんの背中は広く、両手を乗せている肩は
こんなにもたくましいのですから。。
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冬ですけれど、初夏のようなのどかな日。
晩夏なのに、明るい年明けのころの清冽な日。
季節の眼差しが、多少、戸惑い、迷い道しても、
構わないのかもしれません。
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素通りする人はいるでしょう。
立ち止まる人もいるのかもしれません。
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「あら懐かしいね、よくしましたよ。」
「重かったなあ、思ったよりも。腕はしびれてくるし。。」
「のりごこち悪かったわ、乱暴で。。」
「私が泣いたから、しょうがなく、おぶってくれたの。」
こんなことを、呟きながら。。
妹のいない男の子は、羨望という言葉に出会い、
ささやかな不運を嘆いたり。。
兄のいない女の子は、お父さんの背中で代用しようかなと、
一工夫を思案したり。。
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少女の笑みは、モナリサスマイルなのかもしれません。
共感の中に漂う小さな幸せ。
想いの在り処を探す旅は、もう少し続きそうですから。
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Jozef Israels (1824~1911) Dutch painter
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「ツイン、対の想いB 」
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金髪の子供が二人。
幼子は父の左腕に抱えられ、
大きな子は歩きながら、父の右手を握りしめています。
二人は兄弟なのでしょう。
ひじあたりに腰かけた弟は、
不安そうに前方に顔を向け、
兄はこわばった面持ちで、父を見上げています。
口を固く閉ざし、怖い顔をしている父。
まなこを見開き、前をまっすぐに睨みつけています。
あたりは夕闇が漂い始め、雲の白さや、空の青さが、
親子の後ろで、明日への暇乞いを告げようとしています。
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何も信じるものはない。
怖いものなどありはしない。
あるのは、この大きな怒りだけ。
絶望の中で、聳えていく漆黒の塔を無視するように。。
光をくださいと懇願もせず、
灯りとなるものを探そうともせずに。
父は、ただ前だけを見つめます。
子供たちを抱きかかえ、手を握りしめ。。
まるで、世界はわが腕の中にありと言わんばかりに。。
そして歩き続けます。
ただ前をじっと見据えながら。
悲しみの中の愛。
愛が悲しみを背負うのでしょうか。。
悲しみを怒りに変え、生きていかなければいけない、
今、そして、これから。
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残された作品の中で、もっとも険しく男の、父親の姿が
描かれた一枚。
題名は、「母さんの墓を通りながら。」
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1922年、この絵は、画家の生まれ故郷の街角、
小さな公園に彫像となって設置されます。
戦争中、彫像はいろんなことに
巻き込まれてしまうのですけれど、それはまた別のお話。。
今は、悲しみと怒り、愛のきびしさ、強さを、訪れる人々に
まなざしで語りかけています。
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Jozef Israels (1824~1911) Dutch painter
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02 「駆ける少年 Run with shadows 」
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逃げる?
―とんでもないね。
追いかけている?
―そんな風に見えるのかい。。
探している?
―そんな探し物、どこにあるって言うんだい。
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失敬な人だね、君は。
とにかく僕は忙しいんだ。
4人の大事な連れがいるしさ。
彼らの紹介は、いつか暇なときにでも。。
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いけない。。話しかけられるものだから、
ローディンがよそ見を始めている。
ヘイ、前を見ようぜ、ローディン!
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会いに行くんだよ。
君にとっては、たいしたことないだろうけれど、
僕らにとっては一大事さ。
プレィリーフェスティバルの賢者。
4本足の賢者様が、
南の川辺に現れるはずなんだ。
小さなクリークがあってね。
雪煙が見えるかい?
何を見ているんだろう、君ってやつは。
僕らの足元、つま先や踵のあたりに渦巻いているのが
わからないかい。。
ほら、うしろの橇のあたりにも、ふたつあるじゃないか。
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急げ、急げ。
お月様が、橙色の丸っこい瞳でウィンクしているぞ。
急げ、急げ。
足元に影が近づいてきた。
急げ、急げ。
橇が雪の手につかまれかけている。
急げ、急げ。
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みんな、聞こえる言葉なんて無視するんだ。
どうせ、彼の背中には、2本の足にも、
びったりと影の奴がしがみついている。
走れないやつ、眺めているやつには、
何とでも言わせておけばいい。。
僕の名前は、ムーチェラトゥンガ。
素敵だろう?
響きがビシッと決まっていて。
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いつか、足元に張り付いた、薄暗い相棒と別れられたら、
僕たちを訪ねてくれ。
星落ちる谷の、2番杉のあたりが住処さ。
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Frederic Remington (1861~1909) American painter
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03 「 明日、晴れるかな? 」
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じんじん。
縮んだり、伸びたり。
じんじんが止まらないんだ。
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いつごろ、よくなるのかわかる?
明日、それとも明日の次の日?
夕方には、元通りになるのかな。
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くすくす笑わないでよ。
曲げちゃいけないと言われても、曲げたくなるんだ。
ちょっとは痛いさ。
痛いから、曲げたくなる。
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ねえ、今日の神様って意地悪だよね。
この前も、そうだった。
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こんなこと思っちゃいけないのかもしれないけれど、
ときどき思うんだ。
いい神様もいて。。
悪い神様もいるに違いないって。
このまえ叔父さんが言っていた。
神様なんているものか、って。
ねえ、お姉ちゃん。
どう思う?
僕はお手伝いしていたんだよ。
不公平じゃない?
痛い!痛いよ、きつくするから。
ねえ、もっとやさしくしてよ。
黙ってないで、ちゃんと答えてよ。
いるの、いないの?
意地悪な神様。。
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そう、そうなんだ。
やっぱりね。
いるんだ、やっぱり。
でも。
でも、って、なに?
もう一人の神様もいるの。
そんな神様の話、聞いたことないよ。
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そう、そうなの。
教えてくれたんだ。
変な神様だね。
お姉ちゃんに、包帯の巻き方教えてくれるなんて。。
僕も、いつか会えるかな。
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Pierre Edouard Frere (1819~1886) French painter
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04「イッチニ、イッチニの小太鼓。」
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ねえ、面白いよね。
つばめさんって。。
今年も来てくれるかな。
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昨日、母さんが話してくれたんだ。
王子様とつばめさんの物語。
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僕さあ、王子様に同情したんだよ。
冬は寒いし、夏はもっときついかなあって。
ぴかぴか光っているし。
まぶしいと思うんだ、とっても。
立派な剣も重いだろうし。
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ずっと立ちっぱなしで、疲れてくると思うんだ。
君、思わない?
夜が遅くなって、誰も塔の上を見上げなくなったら、
お月様が、雲に隠れたりしたら、
王子様は、きっと座っているんだ。
一休みってね。。
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つばめさんが剣の宝石を運んで行ったから、
ふーんと思ったよ。
お兄ちゃんがこっそり教えてくれたんだけれど、
体の金箔も運んでいくらしい。
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やっぱり、つばめさんはやさしいね。
王子様の重い体を軽くしてあげたり。。
まぶしい体を普通にもどしてくれるんだから。
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街の人たちも、喜んでいるし。
王子様も喜ばしてあげて。。
うん、そうだよ。
つばめさんは、えらいんだ。
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まだ、お話は途中みたいさ。
僕が寝てしまったみたいで。。
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さっき、聞いたんだ、母さんに。
今夜も、あのお話してくれる?って。
母さんはちゃんと読んでくれるって約束してくれた。
何かお兄ちゃんが言い出したら、ほっぺをつねられていたよ。
なぜだかわからないけれど、さあ。
君、いつまで聞いてくれるのかな。。
ちゃんと、聞いているよね。
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もしもだよ、僕が君だったらね、
手を出して、足も出すんだ。
そして、床の上を行進するんだ。
僕はこんな風に、小太鼓をたたくよ。
君が元気よく、行進できるように。
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そう、一緒に王子様の塔まで行進しよう。
僕も行進するよ、小太鼓を叩きながら。。
それで、君は、あったかいスープかシチュウを、
お腹に入れて、王子様とつばめさんに、
いっぱい運んでいくのさ。。
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Pierre Edouard Frere (1819~1886) French painter