絵画と散文のコラボ、ささやかな寓話、児童文学、犬や小猫のお話 

Walking III – Part3

14「 浮かぶ隊商宿 」

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駱駝が一頭いました。
もう一頭が現れます。
君たち大きくて元気そうだね、立派だし、楽しそうだし。

子供の駱駝もやってきます。

でも考えてしまうよ。
この小さな駱駝は、売ってしまおうかな。

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長旅に、きっと耐えられない。
どこかのオアシスでナツメヤシの幹に
縛り付けてお別れってことになるのが、
関の山かもしれないから。
大きな駱駝が二頭、
振り返り、振り返り、とぼとぼと歩き出すんだ。

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いくつも砂の丘を越えていくのさ。
色とりどりののシルクや、更紗、
素晴らしい香辛料をどっさりと積んで。

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まるで砂の海さ。
止まってしまった大波のてっぺんで、
風にながれる帆を見上げるのは気持ちいいだろうね。

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もう三頭駱駝がやってきたよ。
ちょっと年をとっているけれど、頑張れるかも。。
そう、賢そうだし。。

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ねえ、君たちは賢そうだけれど。
一緒に行ってくれないかな?
ちょっとだけ、長い旅に出たいんだ。

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あの駱駝君たちは連れて行きたくないんだ。
何故って。。
ほら、離ればなれになってはいけないものって、
あるよね。

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父さんは船乗り、船長さんさ。
僕もいつか、あの広い海原に出て行きたいけれど。

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海のお話をすると、哀しい顔になる人がいるから、
あまりお話ができない。

秋には港に戻ってくるって聞いている。
知っているよ。
石壁に塗り込められていた夏が、
あらあらっと踊り出すころさ。

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春にはきっと、雨の季節が終わる頃にはきっと。。

母さんが窓の外を眺めながらつぶやくんだ。
いつも、次の季節のことを追いかけているみたい。

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不思議だね、僕はカレンダーをめくって戻すことで、
父さんに会えるというのに。

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ねえ、駱駝君。
僕と一緒に出かけてくれるのは、誰かな?

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今日の西風は、5ノットだよ。

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John Everett Millais -Bubbles, 1886.700.

John  Everett  Millais  (1829-1896)  English  painter

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15 「 アペロールの午後 」

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残りのページが薄くなってきたわ。
後書きまで、あとどのくらいって、
指先が、一枚一枚なぞりたがっている。

今回は、なんとなく我慢できたんですよ。
後書きは、最後に読めそうな気配。

置き忘れてきたものは、見つからなかったけれど。
ときどきは楽しめた。

探し物ってなんなのかしら。
探すことは、読むことのお友達みたいですし
それとも、読むことの気まぐれな飾りなのかしら

午後のひとときに、オレンジ色のシャワーを浴びて

ほら、足下には、夏の青空が踊っている。

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ねえ、神様。
贈り物を求めることはもうしないけれど、
お礼が、笑顔で言える分別くらいは身につけれました。

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あとは、そうですね。
この本がもうちょっとコミカルになってくれると
嬉しいのですけれど。
さっきから、ありきたりのセリフしか出てこなくて。。

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小一時間もすれば、風が柔らかくなるでしょうに。。
今日は背伸びをせずに、
娘とアペロールを飲むのはやめておこうかなって。
赤いリキュールに炭酸を入れて
グラスの泡の中に、夕暮れの世界を透かしてみようかしら。

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それなりに、好きなんですよ。

今日に、さようならって、つぶやくのが。

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Theo van Rysselberghe .

Theo  Van  Rysselberghe  (1862-1926)  Belgian  painter

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16 「  Heavenly  Maiden’s   dance  」

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ママ。
パパは本当にできなかったの?

不思議ね、マイケルは
パパに習ったって言っていたわ。
何度もステップを練習させられたって。。

どこかの誰かさんが
パパに教えてあげたのかしら。
いつか、できたらいいな、幸せのランタンステップ。

思いつくものなのかな、
それともみつけるのかしら。

ガリレイさんの気持ちが良くわかる。
そうよ、
地球は回っているわ。

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もしお月様になれたら
夜空をピンクに染め上げて
恋人達に、とびっきりのブーケを届けてあげる。

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しあわせが噴水のようにあふれて
幸せのお花さんが胸いっぱいにつぼみをつけるの

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みんなが見とれてしまうことが
ちょっとだけ心配かな。
目を回さなければいいけれど

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Tessier Louis Adolphe-dance.700.

Tessier  Louis  Adolphe (1858-1915)  French painter

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17 「 夢のつづれ織り 」

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散りゆくものだから、そう呼ばれるのかしら。
寂しすぎるから
移り気な、そよ風さんにも息がつまってしまう。

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見えないものだから、そう呼ばれるの。
口にはできるのに、あなたの優しい耳には聞こえない。
呼びかけても
振り向いてくれない

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消えるものだから、そう呼ばれるのかしら
差し出した手のひらの上で、羽根をはばたかせているわ。
小さくなる姿を見送りながら
後悔だけが温もりを残してくれる

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忘れかけた夢だから、そう呼ばれるの。

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もう、もどれないのね。
目覚めたあとに、迷い続けた道がつぶやいている。
あの苔むした廃墟が、入り口だったかもしれないと

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最後の歌だから、そう呼ばれるのかしら
かけがえのないもの
次こそと、願っていても
繰り返しの中で、途切れながらほころびていく
想い出のつづれ織り
口にはしないわ、胸の内に留め置きするの。

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響きのはじまりが、木霊しながら
吐息にまぎれてしまわないように

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あなたは遠く離れてしまった
言葉が、かすかにしか聞こえなくなって

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あなたは遠く離れてしまった

わたしは私のこころから、遠く離れてしまった

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あなたは遠く離れてしまった

何もかもが、感じれなくて。。
何を忘れたいのかわからなくなったら

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私は帰っていくの。あの入り江に。

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青白い夜の歌が、迎えてくれる。
上弦のお月様と、お日様がいなくて寂しがっている
星の子供たちのコーラス。
透きとおった歌声が
寄せる波の拍手にはげまされて広がっていくわ。

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遠く離れてしまった、わたしのこころを探せるように。。

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Amos Imre - Little Boat 1944.800.

Amos Imre  (1907~1944 or 1945) Hungarian painter

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18 「 恋は水色 」

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「色指定はございませんか?
 細かく設定、微調整が可能ですけれど。」
「色調、彩度、トリミング、ご要望があれば。。」

いくつもの質問を受けることになった。
午後の日差しが、デスクの上に、黄色い平布を広げていた。
試し刷りされたサイズと画質の異なるサンプルが、
整然と並べられていく。
華奢な縁メガネをかけた女性が、
飾り付けた爪を踊らせては、
感想を添えながら説明を続けていく。

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「あの、これなどはいかがでしょうか?」

「すいません、考え事をしていました。
  ああ、そうですね。。」

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おかしなもので、担当の彼女は、
期待していたタイミングで、眼鏡に触ってくれた。
持ち上げるのではなく、軽く触れたところで手を止めた。

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「表紙に使いたいんですけれど、
 そうもいかなくて。。」

「バランスか何かですか、構成上の観点からとか。。
 ちょっと浮いてしまいますね。」

「これはですね、あるひとたちには喜んでもらえるかな、
 ニコッとする人が少しはいるのでは、と。。
 でも無理ですね。」

「表紙だと全体の顔になってしまいますしね。」

「最後だと目立ちますし、どこか適当な場所に、
 どさくさに紛れて入れてしまおうかな。
 シャッフルして決めましょうか?」

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彼女はくすりと笑いもせずにこちらを見た。

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「何か選ばれる、特別な理由がおありでしょうから。。
 最終的にはご自分で決断されてください。
 コーヒーでも入れましょうか。。」

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彼女はこちらへの詮索を放棄したのかもしれない。
ちょっとだけ軽くなった足音を響かせて、
部屋から出て行った。
僕も足を組み直してみる。
少しばかり気持ちが軽くなった。

そう。。
説明しても、
陳腐にしか聞こえないことも多々あるものだ。

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1909年

1922年、来日

芥川龍之介

パリのシャトレ座

ニジンスキーと共演

サンサーンス

瀕死の白鳥

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場所は不明。
しばらくは、それでいいのかもしれない。

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Valentin Serov-Anna Pavlova-in-the-ballet-sylphyde.700.

Valentin  Serov  (1865-1911)  Russian  painter

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19 「 水辺の午後 」

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あさい平皿が、散らばっていた。
照りさす、光の針が、
若緑の糸をきらきらと縫いこんでいく。

すいと伸びる、粗石の桟橋。
先端にはボートが一槽、舫ってある。
塗装が剥がれかけ、木目の凹凸から、
繰り越した年の数が顔をのぞかせていた。

ヒールが、軽いリズムを響かせる。
水面に映る景色の中を、さざめきながら女性が歩いていく。
足元を気にすることもなく,通いなれたように。。

ワンピースの裾をひとつまみおどらせ、ボートに乗った。
由無い小波が生まれ、
睡蓮のお皿のいくつかを、取り囲んでいく。

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☆☆☆

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「あら、久しぶり、元気だった?」

「危ないわよ、そこに足をかけたら。」

「乗ってみる?一緒にどこかに行きましょうか。。」

「去年の夏、南風が遊び始めたころだったかしら。
つたが、水面に触れたいように、
ゆらゆらブランコしていたわ。」

「待つってつらくないのよ。
ときどきは、待てることに、ありがとうって言えるし。
春の小鳥さんが、いなくなっても。。
どこかの夏や秋の空を、気持ちよさそうに
翼をはためかせているに決まっているでしょう。
そうよ。。もしかじゃなくて、きっと、そうなの。」

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☆☆☆

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「6月には来れなかったの、ちょっと忙しくて。
うん、元気だったわよ。あなたも元気そうじゃない。」

 

「いいこと半分、普通が半分かな。悪いこと?
悪いことは数えないことにしているの、
ほら、夜空の星と一緒。
数えだしたらきりがないし。。
でも、ときどき忘れたふりはしているのかな。」
「この前は、ごめんね。
あまり話す気分になれなかったの。

朝、目がさめたら、山越えの灰色雲がいっぱいだった。
お空さんにはりついて、じーっと沈黙していたわ。
いろんなものが押しピンや虫ピンで留められていたのよ。

アパートのお隣りの物音だけかすかに聞こえてくるし。
街の輪郭はまっすぐな線しか見当たらなくて。。

窓を閉めたいのに、
カーテンを引くのが精いっぱいだったってこと。。」

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☆☆☆

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「透明な君なのかな。
今日は、会いたかったの、でも。。
都合の悪い日もあるわよね、あなたにだって、きっと。」

「キンポウゲがいっぱい咲いていたわ。
踏みつけちゃいけないかなって、
ちょっと遠回りしてきたの。
午後の光が、バターカップのように、
黄色く笑いながらあふれていて。。」

「君は真っ白な毛があるから大丈夫かな。。
子供のころ、茎を折った拍子に、
手が赤くかぶれてしまったわ。
それからは、眺めて通るだけ。。」

「ねえ、君はよく尻尾を振るでしょう?
いろんな振り方知っているみたいだけれど、
一人で散歩しているときも、尻尾は振るのかな。
ときどき気持ちよさそうに、
ゆらゆらとやっているでしょう。

あなた、気づいている?
ばれちゃうかもよ、思っていること。。」

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☆☆☆

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「あら、ごめんなさい。ぼーっとしていたみたい。」

「そうか、今日も会えたね。。
たまたまなの?そうなんだ。」

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☆☆☆

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「傷つけたわ、傷つけられたから。。
彼が言ったの。
僕はそんなに傷つけてしまったのか、って。
だから、私は言い返した。
とても、傷つけられたから、そうしたのって。」

「あら、ひばりさんが飛んでいる。。」

「ねえ、待っているっていいことなのかしら。
勝手に待っているだけ?きっと、そうね。。
ちょっとおかしいね。
すべてがまともで、このことだけが、おかしいのかも。
今、あなた笑わなかった?小首をかしげたでしょう。
単なる癖なの?
まゆを寄せたりするから、いろいろ思っちゃうじゃない。」

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☆☆☆

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「。。。音楽はないのよ、知ってる?」

「絵もないの、でも。」

「そう、お話もないんだって。
いつもそんなこと言っていたわ。」

「私が笑うと、彼は困った顔をしていた。
それから、遠くを見るの。
でも、それは遠くを見るふりなの。
なぜ、そんなことがわかる?

いい質問かも。。わかるときは、わかるの。
どこかで、感じるから。
不思議でしょう、顔はあっちを向いているのに。」

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☆☆☆

「ねえ、あの橋の向こうに行ってみたいと思わない?
トンネルの向こう側、一度だけ行ったことがあるわ。」

 

「普通だったのよ。
変わったものは何もなかったし。
もし、もう一度行ってみて、やっぱり何もなくて、
普通だったら、それって悲しくない?
わかんないだろうなあ。
普通だけれど、ほんの少し特別なことってあるんだから。」

「でも、まぶしいね。
まぶしすぎて、目を開けているのが嫌になっちゃう。」

「影法師さんがふわふわ遊んでいるみたい。
ほら、欄干の右端から2本目の、
つたが垂れているあたりにも。。」

「どう、ちょっと綺麗になったかしら?
お手入れしたのよ、大変だったかも、うん。
一度洗って、生地が縮まないように、
風通しのいいところで乾かしてあげたの。」

 

「他のは使わないのかって?
そんなことないわよ。
先週、買ったの、新しいパラソル。
可愛らしいパゴダよ、フリルもいい感じかな。
でも、ここに来れるときは、この。。」

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☆☆☆

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午後のお日様の旅が、半ばを終えるころ、
たゆとう水は、長い微睡みを解かれました。
めぐりくる土手越しの風に、吐息をあずけようとしています。
ボートのかたわらで寝そべっていた、白い犬が身じろぎをし、
すいと立ち上がります。

蓮の葉に、はにかむ青色と、温順な朽葉色のまなざしが
ひとはけ重ねられて。。
橋にならんだいく筋ものツタから、
翡翠のしずくが途切れることもなく、
水面に、もうひとつのわが身を寄せていきます。

 

藍に馴染む隧道の向こうには、
光が楕円にふくらんでいました。

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オールをなくしたボートから離れ、
岸を目指して、のんびりと歩きはじめます。

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向こうを見上げながら、白犬は立ち止まります。

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遠くに人影が二つ。
パラソルが振られていました。

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Fin

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Inubuna-Japanese living artist.

Inubuna  –  Japanese  living artist

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「後書きに代えて。。」 

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Walking in the picturesシリーズも3冊目になりました。

特別な絵が2枚、第三集には入っています。

巻末を飾っている
Inubunaさんの作品が、その一枚です。
このシリーズで、唯一の、現代アーティストです。
彼の絵に出会わなければ、
シリーズそのものが生まれませんでした。
ある時期、お話が書けなくなり、
そのころに「水辺の午後」の絵を見せてもらいました。
彼に、「この絵に、文章、お話を添えてもいいだろうか?」
と聞きましたら、思いがけずも、
笑顔で許可してもらえました。

すべての始まりになる一枚です。
本来なら、
第1集の冒頭に置かれるべき作品だったのかもしれません。

お話の長さゆえ、
第3集のアンカーに置かせていただきました。

 

そのような意味で、Inubunaさんと、あの絵に、
深い感謝を捧げたいと思います。

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そして、もう一枚。
それはAmos Imreさんの、作品です。
数年前に出会い、どこか気になるものがありました。
単純な水彩画なのに、何かしら、語りかけてくるものが。。
絵と向き合ううちに、小さな文章が生まれました。
本に入れることになり、
画家さんのことを詳しく調べることに。。

そうすると不思議なことが。。
没年のデータがもう一つ見つかりました。
1944年と考えていたのが、1945年とも。
今まで、いろんな画家の画業、その人生に触れてきましたが、
このようなことは初めてです。
画家の作品群から、作品を選ぶのが通常なのですが、
あの一枚は、まず絵と出会い、文章が生まれ、そして画家の
作品群、画業、人生の確認という流れでした。

Amos Imreさんは、ユダヤ系ハンガリー人です。
1944年、労働収容所から、
Saxonyの強制収容所に移送されます。

そこで没年が特定できない何かが起こりました。
「Dream  Boat」と名付けられた、あの作品は、
1944年制作ということになっています。

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紹介できた画家さんたちと、その作品に、
感謝と敬愛をささげながら、
今年の扉を閉じようと思います。

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  モッキングバード

 

 

 

 

 

Walking in the pictures III
   

           Mockingbird
        

           2014 Winter

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