12 「 二人の午後 」
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結べないの。
うまくいかない。
教えてよ。。
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わからない。
うまくいかないなあ。
やっているのに、だめ。
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お日様が遊んでいるから、
緑の手がじゃまするの、
黄色さんがいくつもお皿をならべているし。。
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笑わないで、
一生懸命なんだから。
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真っ白なお花さん、
百合の花、とってもきれいだったね。
お姉ちゃん、今度は私にも持たせてね。
オレンジ色のランタン。
イースターっていいなあ。
夜。
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夜よね。
きれいな夜がいっぱい。
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あっ、ありがとう。
う~ん、ひとつだけでいいの。
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Helen Mcnicoll (1879~1915) Canadian painter
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13 「 晩鐘。 Gold leaves 」
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待つべきか、待たざるべきか。。
去る者、帰りくる者。
待たせる人に、待つ人ありて。
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さてさて、何を待てばいい。
待つふりでも気取ろうか、などと。。
帳を運ぶ北寄りの風に訊ねても。
忸怩たる、笑い声、返り来たる。
くゆらせる煙は、友。
永き刹那に、ゆめは流れて。
捩じれては、見失われた、ことわり。
思いは尽きせぬ、去りし日のぬくもり。
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羽根ひろげる、波間の黄金で、
望郷の扉、かの鍵を何度手にしただろう。
忍ぶ、忍ばずは、薄暮の抱擁。
一枚。
二枚。
黄金色のコイン。
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一枚。
二枚。
薄紫の天に、投げあげて。。
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表。
裏。
落ち行く先は、眺めず。
眺めず、見届けもせず。
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落ちて、決めるものにあらず、
宙にあるうちに、決めしものならば。。
囚われし記憶のつぶやきより、
闇にあずけた、わが心、
時ゆく旅人の装束を、買い戻さん。
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この、輝き淡き、
黄金色のコインの尽きるまでに。。
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Edward Henry Potthast (1857~1927) American painter
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14 「 虚空に散りゆく 」
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武人、漂泊の末に、枯れ野に立つ。
究めたものは数を忘れ、
練りつづけた技は、茫のなかに埋もれゆく。
隻眼に、終焉の魂気、彼方より参り来る。
両手を垂らし、肩幅やや広めに足を広げ、
息を細めて溜めること、ひとつ、ふたつ。
名無き、業物を抜刀し、
すいと正眼に構える。
剣先伸びて、まどふ風もなし。
ひょうと打ち振られし無拍子の剣。
一振り、そして一振り。
修練の刃、煌めくたびに、
かなめの標石は砕かれる。
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一突き、また一突き。
打突の響き高らかに
雅な玉砂糸は霧散する。
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鏤められた色灯り、さらさらと零れ落ち、
無間のはてを越えんと、回帰転生の旅、ここに始まらん。
老いたる武人、剣を納めることなし。
業物を大地に突き刺し、鞘を横たえ、いずこにか立ち去りぬ。
枯れ野、黙寂してしばし、天空の半ばに、橋を浮かべる。
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彼の地の人、語り継がん。
剣捨ての天津橋。
または、ふもと絶たれし、色落ち橋と。。
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Caspar David Friedrich (1774~1840) German painter
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15 「 海辺の勇者たち 」
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ポセイドンが出てくるかもしれないね。
ハーデスが、冥界から指揮して、
沖に恐ろしい怪物を潜ませているかもって?
クラーケンかい。
そうか、そうだね。
君は正しいのかも、セルヒオ。
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イケル、
海賊船が水平線の向こうにいるのかもしれないぞ。
君は目が遠くまできくから、
ときどき見張っていてくれたまえ。
僕の体が、太い大きな両手が、
何のためにあると思うかい?
君たちのガーディアン、そして、お手伝いをするためさ。
いいかね、内緒だよ。
今日は、僕の神様は信じなくてもいい。
そのかわり、僕のことを信じてくれたまえ。
僕は君たちの神様を信じている。
君たちを信じているからね。
さあ、みんなに続こう。
バレンシアの光が、風が、
君たちを待っている。
ほら、よく来てくれたねと、
波がうれしそうに、手招きしている。
腕や体が喜べば、顔が笑い出す。
そして、こころがぽかぽかと弾みだすよ。
さあ、行こう、海辺の勇者たち。。
君たちの勇気を、笑顔を、
いろんな神様に見せてあげよう。
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「悲しみの継承」「悲しみの遺産」
というタイトルの油絵が113年前に出品されました。
パリの万博でのこと。
パブリックな目的で描かれた、作品でした。
中央の少年たちは、ポリオの後遺症とともに生きています。
2002年、ヨーロッパはポリオからの解放を
宣言します。
外光派、ホアキン.ソローリャの、渾身の一枚。
画家は、二度とこの主題に帰ることはなかったといいます。
万博で与えられた、グランプリの名誉は、忘れ去られても…
痛みと希望、厳しさと慈しみの矢を、
共感、共生、良心という的へ、
疑念わくこと少ない知性の表層に、
射続けているのかもしれません。
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Joaquin Sorolla (1863~1923) Valencian Spanish painter
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16 「 宵待ちの巡礼 」
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つながっていく。
ばらばらに想えていたの。
はなればなれになっていたはずなのに。
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ひとつがひとつ、もうひとつって声をかけていく。
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やあ、こんにちは。
は~い、じゃあね、って。
いろんな声が聞こえてきて。。
みんなが手をつないでいく、輪になりながら。
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観覧車がゆっくりと回りだすわ。
そうして、笑顔が見えてくるの。
今日が好きになっていくのって楽しい。
お父さんたち、お留守番ね。
何かいいことしているのかな。。
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さらさらの砂浜。
静かな返し波。。
かあさんの髪をゆらす、宵寄せの風。
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あっ、昨夜のお星さまのまたたく音が聞こえたわ。
今夜のお星さまをうらやましがっているみたい。
おばあちゃんの笑い声も。。
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いつか、私も女の子と一緒に歩くの。
必ずよ。
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そして、お話してあげるの。
手をやさしくにぎりながら。
胸やこころが幸せでいっぱいになった、今日のことを。
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わたしはわたし。
胸を張って言えるの。
そう、かあさんの娘よ。
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Thomas Cooper Gotch (1854~1931) English painter
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17 「 レディーフォクシーの憂鬱 」
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どうして。
なぜ。。
先週から、ずっと気になっているの。
好きじゃないこころが、離れてくれない。
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妹ができて嬉しかった。
あなたは本当に素敵だから。
とてもいい子よ。
私よりレディーかもしれないくらい。
ママからも、お小言、言われないし、
ときどき、見習いなさいなんて。。
似ているって、よく言われるでしょう?
そうよ。
ちょっとだけ鼻が高かったんだ。
大好きなあなたが私にそっくりって言ってもらえると。
ほんわり幸せな気持ちになれたの。
先週、お隣のラルフがニコニコ笑いながら、
小声で伝えてきた。
ブランコに乗っていたときよ。
藤棚の太い幹を見ていたの。
ごつごつとねじ曲がった木から、綺麗な薄紫の
花びらが噴水のように流れ落ちて。。
ラルフが、感心したように言ったわ。
君の家の藤は、すごく綺麗だね、このあたりでは
評判になっているって。。
ラルフのママもパパも感心していて、
今度のお庭でのお茶会、楽しみにしているって。。
そのあとに、言われたの。
小声でね、くすっと笑いながら。
私の瞳が、あなたにそっくりだねって。
嬉しいけれど、
すこし悲しかった。
そのときは笑ったのよ。
口元だけで笑わないようにって、気をつけた。
ごめんなさい。
昨日も、今日も鏡を見たくなかったの。
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ごめんなさいね。
明日はきっと、笑顔、笑顔よ。
レディーフォクシーの優しい、お姉さんになってあげるから。
そう、あなたはとってもいい子なんだもの。。
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Louis Leopold Boilly (1761~1845) French painter