07 「 待ての響きに覚えあり。。」
上々
いや、なかなかに上々の朝。
珈琲の香り気持ちよく、
マーマレードの甘みも心地よく。
今年も初日を迎えられて何より。。
腕に覚えありと言いたいところだが、
錆を落とすのに、しばしかかるかもしれぬ。
それなりに迷惑をかけるかもしれぬが、
よろしゅう、よろしゅう頼みます。
森や草原を横断し、山や川を越え、
大地を踏破しては、追いかける。
それも、よき相棒に恵まれればこそ
狩猟開襟。
初日のめでたき朝にこそ、君に伝えたい。
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今年もよろしゅう頼みます、と。
そして、
言葉には表と裏があると言うこと、
ご理解いただきたい。
時には、
まて。。
「待て!」
と聞こえるかもしれぬが、
心の中では、
「待ってください」
と、頼んでおる。
けたたましくも、
不遜な言葉を使いがちな自分なれど、
そこのところは、どうかご容赦願いたい。
言葉には裏も表もあること故、
いろいろ不快を与えるかもしれぬが、
そこは相棒のよしみと、寛大な。。
ちと、
言葉が足らぬかもしれぬが、そういうことじゃ。
それでは、
今年もよろしくお願いいたしますぞ、相棒。
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Anna Ancher (1859~1935) Danish painter
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08 「 Peek a boo いないいないばあ~ 」
見上げるだけ
見つめるだけ
それだけでいいのだから、不思議な時間。
きっといいことがある。
嬉しくなることが起こるんだ。
覚えているもんね。
忘れたりはしないさ。
だから
じっと見つめていよう
見上げていよう。
ちょっと
見上げすぎて
首が疲れちゃったけれど。。
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でも、大丈夫。
ちゃんと待っているから、
難しい言葉は苦手だけれど。。
その布きれ、おしゃれで素敵だね。
僕にもきっと似合うと思うんだ。
それとも、勘違い?
それでもいいさ、
僕はずっとここにいるから、
何があっても。
わかっているよね。
そのことは信じてほしいんだ。
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Briton Riviere (1840~1920) British painter
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09 「 風の詩 」
思い出せる、
思い出せないのかしら
数えれる、
数えれないものかも
あの歌詞は2番の始まり
それとも3番だったかしら
おばあちゃんに習ったのよ
いろんなことを考えて
でも、考える前に感じているの
時間だけが流れていく
見えないのに
感じるから不思議よね
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あなたたちがいるから
わたしは今こうしているの
見えないけれど
あなたたちがそっとお手伝いしてくれるから
いくつもあるのね
数えたことはないけれど
見えないものって
でも聞こえてくるの
こんにちは、ひさしぶり、って
不思議ね
おばあちゃんの笑い声を思い出すことができるなんて
いつも明るいおばあちゃんだった。
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好きなものがいくつもいくつもあって
少しずつ私たちにおすそ分けしてくれた
そうそう、新しいジャガイモさんが取れましたよって、
木箱でどっさり送ってくれた。
真っ白な冬が好きだったわ。
いつかお話をしてくれたの、
雪虫のお話を。
寒い寒い、でも輝くように、真っ白な雪の朝に。。
フワフワと飛んでくるの。
女の子の手のひらにも留まってくれる。
悲しいのよ、雪虫は。。
手のひらの温もりの中で、
溶けながら息絶えるの。。
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私は手のひらに留まった雪虫を考えていると、
泣きそうになった。
なぜ、どうして?
そんな顔をしておばあちゃんをじっと見上げたわ。
おばあちゃんは、私の手をにぎりながら、
そっと言ったの。
わからないことは、たくさんあるのよ。
でも一番大事なことは、きっとわかる。。
ほら感じない、聞こえない?
あなたの手でよかった。
あたたかったわ。
とても、とってもありがとうって。。
雪虫さんがきっとあなたにお礼を言っている。。
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Francois Alfred Delobbe (1835~1920) French painter
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10 「 救いなきもの 」
名前のない馬
名を忘れた旅人
名を捨てた吟遊詩人
名前の裏と側面には、ゆかしきものいくつかあれど。。
興ざめの最たるは、
昨夜の夜会かもしれぬ。
とあるピアノ弾き現れて、
演奏を2曲、3曲と続けた。
腕に覚えを無くしたか、
興が乗らぬのか、
青ざめた表情に、
チラチラとくすぶる怒りを、冷たい瞳に浮かべて。。
刺げ多き不興を旋律にちりばめ、聴衆に届け続けた。
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さてさて
忘れがたきは、夜会の残渣。
名も消したきピアノ弾きの、悪意のばらまき。。
鍵盤の耐えがたき悲鳴の幾千が、耳朶に残る。
まばらな拍手に追われ、彼女の退場するは、
お仕着せの一礼に相応しくもあり。。
それはさておき、わが身の不思議さよ。
さて
さても
幻とうつつの鬩ぎ合いか、この地は。。
いずれかに
加担する義理はないにしろ
境界を演じるなどという野暮は避けたいもの。。
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誰がためにか
無明の旋律をお届けしよう。
名づけるいとまもなく
湧きいでし主題
鎮魂の余韻を、弦に沈めてゆかん。
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Antonio Ambrogio Alciati (1878~1929) Italian painter
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11 「 Madonna 」
黄昏に目覚めしと巷に言う。
夜明けにまぶた閉じると古に聴く
光輪、さほどの友とせず
誓言、胸にかき抱くこともなく
祝福の木霊もいずこにか消えゆく
さてもなき 縁はなく
幸もなく 慈しみはうすきかな
世界に乙女あり
光と闇の両界を行き来することひさしく
数えることあたわず
いつしか灰色の乙女と呼ばれる
行く末を無くした人々の、よりどころとなりて、
迷い人とともに、薄暮にて寄り添う
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とある陰鬱なる世紀に
乙女と邂逅せしひとりの詩人、冠を献じて、
いくつかの詩篇を残さん
哀れなることに、
大半は時と光の浸食に絶えず、
砂の風紋にて世界を滅流す
明白なる一遍は、彼の霊園のうちにあり
エピタフに残されし言葉
遺言により刻まれし、一行詩
「光があきらめし命 闇のうてなにて復活を歌う」
「Lady of Darkness 」
後の人々、
レリーフに浮かびし闇色の乙女を、
斯様に呼びて敬愛す
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Antonio Ambrogio Alciati (1878~1929) Italian painter
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12 「 三者択一 」
確率の計算をしてみようか。
いやいや、野暮は言いっこなし。
大人の蒙昧的判断で切り抜けてみよう。
そもそもだ。
幻と夢を区分することのメリットは、
いずこにか存在し、
誰のためにあるのか、ということだ。
どちらに優越を与えるのか、
いずれに比喩的超越を標榜させるのか。。
こむずかしいことはさておいて、
少しばかり距離の旅に出てみようか。
俯瞰するだけ、十分なところまで遠ざかってしまうと、
さほどの差は、無に近いものになり、
理の闇に吸い込まれていくのだ。
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そこは果ての果てとでも言うべき場所。
そんな久遠の果てには
可笑しな立て看板があるらしい。
見た。
見ていない。
見たくない。
覚えている。
覚えていない。
覚えたくない。
さてさて、
世迷いの果てなんて、その程度のもの。
夢と幻にいたっては、
過去と今と未来
どこで出会うのか それくらいが関の山さ。。
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最近、耳にしたんだけれど、
酔狂な輩がいてね。
看板の足元をきれいに掃除して、
土台に彫ってある文字を見つけたらしい。
そして彼の証言するところでは。。
「よくこんな場所まで来てくれた。
気をつけて帰ってくれたまえ。
忘れるには遠すぎる、美しすぎる距離なのだから 」
って、書いてあったらしい。
どうも眉唾だけれどね。
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Otakar Lebeda (1877~1901) Czech painter
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13 「 夜明珠 yameisyu 」
Fate is kind
She bring to those who love
The sweet fulfillment of
Their secret longing
Like a bolt out of the blue
Fate steps in and sees you through
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あら、嬉しい。
久しぶりなのに、
最後までちゃんと。。
ジミニー
ジミニー、クリケット
彼は今頃どこにいるのかしら?
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そうそう。
夜叉の国あたりで彼を見かけたなんて、誰かが。。
風のうわさにしても、ふ~んだわ。
でも、いつか、玄関に彼が。。
あの歌を口ずさみながら、颯爽と現れて。
それから、こう言うの。
「は~い、ごきげんよう。
これが、あの夜明珠ですよ、
お待たせいたしました。」 って。
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Armand Point (1860~1932) French painter
14 「 意気と情熱 」
モットー、口癖、18番とでも呼ぼうか。。
節目の時になると、
この言葉をつぶやく人がいた。
「大事だね、うん。人生は意気と情熱さ。」
いい時にも、悪い時にでもある。
ある意味、公平。
どちらの時でも、そう呟いているのだから。
おりおりに残してくれた言葉を、思い出すことがある。
30年以上前のことだが、こんなことがあった。
ある人のことを1時間ほど語ると、
彼はこう答えてくれた。
「よき人、善人が幸せになるとは限らないよ。。」
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振り返ってみると、
彼らしい言葉がいくつか蘇る。
それはさておきである。
「始まり」
「終わり」
「冬の始まり」
「始まりの冬」
「最終楽章」
「冬の終わり」
彼だったら
「冬の始まり」を選ぶような気がするのだ。
「これだね」と笑いながら、そう言いそうな。。
意気と情熱に、こだわった彼は、
もう一つ好きな言葉があった。
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それを考察すると、
これがぴったしかもしれない。
というわけで、
「冬、希望の始まり」で、どうだろうか?
「終わりを目指すのが、生物的、時間的本質なのだが、
始まりが年年歳歳、連続してもいいじゃあないか、
ましてや、希望だからね。。」
笑いとともに、
明るい彼の声が聞こえてきたような気がする。。
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Vilhelms Purvitis (1872~1945) Latvian painter
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