08 「 サイレントラプソディー 」
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吹きつけガラスのかけら
トルコ石のろう光沢のため息かしら
玉虫の背できらめく縦縞
それとも、胸に飾られた聖パトリックの勲章
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今日のわたしは、海の青、マリンブルー
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波間に揺れる光の戯れから、
疲れた瞳と、こころを休ませる
しずかに、
しずかに
沈んでいく。
すべては曖昧な輪郭に融けていって
やわらかな沈黙に飲み込まれるまで
ささやきが聞こえてくるまで
沈んでいくわたしに、声がそっとささやくの
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ひさしぶり
ゆっくりしてね、いつまでもいていいのよ。
あの上の方の騒々しい
光の世界が恋しくなるまで。。
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ごめんなさい、あなたたちは駄目なの
連れてはいけないわ
そこにはたったひとつの色しかないの
鏡に映ったお友達もいないのよ
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Frederick Carl Frieseke (1874-1939) American painter
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☆☆「リトルマジック」☆☆
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こっけいかしら。
ひょっとしてそうなのかな。
ねえ、あなたたちもそう思わない?
それとも驚いただけかしら。。
ごめんなさいね、もしそうだったら。
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でもわかるでしょう?
世界が迎えに来てくれるなんて。。
あなたたちの世界。
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どうしたい?
そうね、やっぱり。
わたしも同じことを考えていたわ。
これでいいのかしらって、よく考えていたの。
幸せにも、いろんな幸せがあって。
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じぶんでも時々、これでいいのかなあって。
あなたたちに会えた、あの特別な日。
楽しかった毎日
笑顔と歌声をたくさん、ありがとう。
彼にはなんと言えばいいのかしら?
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大丈夫よ、きっと
小さな魔法が、きっと見つかるから。。
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Frederick Carl Frieseke (1874-1939) American painter
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09 「 転調のロンド 」
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彼女は待っているだろうか。
たぶん駄目だろう。。
もうエレベーターの矢印ボタンを、押したのかもしれない。
まん丸い白いボタンを、グイグイと。
アリシアは気が短い女性ではないけれど、
これで、三度目、いや4度目だから。
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どうにもならないときしか
思い出せないのはなぜだろう。
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記号ってやつはむずかしい。
読み落としというものもあるし
解釈、選択、配置
いったい、いくつの扉があるのだろう。
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僕は、ただ。。
調べの中に
ちょっとした悪戯がしたいんだ。
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アリがキリギリスにペテンをかけて
拍手喝采で夏の間中、演奏会をさせたって話みたいに。
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汗だくでみんなを楽しませている間に、
アリ君はせっせと蓄財に励んで、
寒さ厳しい木枯らしや雪の季節には、資本家の仲間入り。
篤志家の肩書きってやつで、
カタカタ震えながら街を彷徨っている、
演奏するしか能のないキリギリスを採用してやるのさ。
ごくつまらないデスクワークの係としてね。
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こんな話は、世界中にごろごろと転がっているのさ。
手を変え品を変え。。
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きっと来年あたりは、行き倒れになりかけているキリギリスに
救命軍の食事券のチケットを渡しているアリの家族とかいる。
やさしそうな父の姿を見上げながら、
アリん子のお嬢さんが呟くんだ。
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「世界はなんてあたたかいんでしょう。
間違いないわ、あの方は上から、
ちゃんと見てくださっている。」
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教会の鐘がカランカランと鳴っていて、
お嬢さんは柔らかな手袋で襟元の
真っ赤なブローチをさわるのさ。
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あれに似ていると言えなくもないけれど。
そうこのあたりで一ひねりかな。
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アイロニー
さりげない哀しみ
乾いていく干潟のやるせなさと、
我慢のならないあの匂い。。
それとも。
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アイリス、今日もすっぽかしてしまった。
遅刻ってやつはどうも苦手でね。
いつも7分以上遅れている腕時計のせいにはしたくないし。
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やっぱり、そうするしかない。
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そう、いいわけも苦手だし。。
わざとじゃないんだよ、本当に。
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けっこう、これって大変なんだ、
ひらめきかけていてさ。
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君の笑顔や、何気ない仕草に
僕は遠くて近いものを感じてしまう。
そしてそこから、調べが生まれてくることがあって。。
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僕は、欲張りなのかもしれない。
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普通のものしか作れないのに。。
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永遠は作れる、表現できるのさ
意外と簡単にね。
誰でもってわけではないかもしれないけれど。。
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でも、そこで僕は立ち止まってしまう。
調べの繰り返しでは終わりたくない。
それが無限に続いていくとしてもだ。
調べの連鎖、メタモルフォーゼに、
乗せてあげたいのさ
瞳に浮かんだ朝霧のような、かすかな憂い
ほおに一瞬の歓びの、一粒の花粉がふれた驚きを
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僕にだけ見える、永遠をさざめかせる、
最小単位のしずくの落下が生み出した、
君自身の奇蹟ってやつさ。
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もうすぐさ、そう感じる。。
翼を与えれるかもしれない
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そのとき君を乗せた調べは、
すべての永遠の中で、ロンドを奏で始めるのさ。
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Mathias J Alten (1871-1938) American painter
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10 「 踏みしめながら 」
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なぜでしょう。。
僕は感謝しているんです、この足に。
大地、そして、草たちの一本一本に
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一緒に歩いている家族
旅を続けている牛たちにも
眼差しが注がれているのでしょう。
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大地があります、足があります。
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世界が荒々しく揺れても
この足がある限り恐れません。
どこまでも歩いて行くことが出来るのですから
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歩きます、どこまでも
そこが目的の場所なのですから。
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家族がいます、牛たちも。
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そして、あなたが見ていてくださるのです
踏みしめていく、この足下を。
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Jozef Chelmonski (1849-1914) Polish painter
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11 「 蜘蛛の糸 Spider Silk 」
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崖
そびえ立つ崖
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目がくらみそう
背中をあずけているのだから
しょうがないのだけれど
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目の前に
世界がずんずんと広がっていく
宙ぶらりんて、すごい
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蜘蛛の糸が
絶壁に沿って吹き上げられていく
どこまで伸びていくのだろう
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そっちじゃないの
向こうに
もっと向こうに 行ってちょうだい
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果てまで続く海
まん丸いことを忘れるくらい
灰をまぶされた海がどこまでも広がって
薄い桜色の波が、いくつもいくつも遊んでいる
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ときどき感じるの
絶壁の美女は大変よ
世界中のおぞましい悪意に迫られているみたい
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だから
あなたに手紙を託すの
誰に届けてくれるのかはわからない
私にもわからないし、あなたにも、ね
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でもきっと、その人の前まで行ったら
この人だなと、気づくの
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気をつけてね
そして、私のことを忘れないで
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ほら地球は丸いって言うでしょう?
少しずつ回っているみたいだし
私も気をつけるわ
ここが空になってしまわないように
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わかったの
こちらが空になったら、たいへんかなって
そうよ
背中を押しつけていることもできなくなってしまう
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目をつぶりたいくらい怖いわ
あんなに遠くの海に落ちていくなんて
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Jozef Chelmonski (1849-1914) Polish painter
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12 「 ろくでなし 」
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あなたはいつもそう。
右を向いたらって、言われたら、
左を向くか、回れ右をするような人。
回ってくれたら、笑ってあげようと待ち構えていても
そんなときに限って、あなたは知らんぷり。
聞こえないふり、とか。
知っている?
あなたみたいな人を、なんて言うのか。
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ある本で読んだの。
紳士は、必要なときにだけ紳士になるって。。
ちょっと笑ってしまった。
でも、淑女も同じかもしれないし。
その次のページにあった。
質問、設問ていうのかしら。
20個くらい並んでいて。。
私は一つ一つ丁寧に答えていった、真面目によ。
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うしろに、たくさんの分析が用意してあった。
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それがふるっていた、扉に
「それなりに妥当な答え」って書いてあるんだから。
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一回目は、あなたは
ちょっと時代遅れの唐変木って。。
夏の終わりに閉められた海の家。
すきま風に運ばれた細かな砂、
ほこりをかぶる、青いガラス瓶ですって。
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二回目は、
涙もろいナルシスト。。
ただその涙は、塩化水素の入った揮発性物質ですから、
取扱注意、だって。
自分だけではなく、赤の他人、一時的同伴者、
永遠の連れ合いにも見境なく、その効用、効能高し。。
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ひどいものもあった。
人生の終末に自己破滅の恐れあり、なんて。
典型的な、の但し書きはなかったけれど。。
塗炭の苦しみ、云々とか。
慣れるって本当かもしれない。
もう驚かなくなってきていたから。。
ろくな人ではない?
あっ、そうなんですか。
ふ~ん、確かに、確かに。。
なんて、笑いながら、言えるようになれたわ。
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必要なときも、必要でないときも
あなたは、きっと、ろくでなしよ。
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だからかな、
最近、個人的に流行っている歌がある。
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ついつい口ずさんでしまう。
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Non , je ne regrette rien
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大きな声で歌うと、気持ちいい。
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遠くに忘れてしまった
あの日への家路を、思い出すことは出来ないけれど
お気に入りのベールが笑顔ではしゃぎだすの。
さあ、今日を楽しみましょうって。。
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Edmund Charles Tarbell (1862-1938) American painter
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13 「 3月のメランコリー 」
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葉っぱを一枚引き抜いて、唇に当てよう。
それとも指二本でわっかをつくって。。
どうせ、かな。
うまく鳴らせないのはわかっている。
僕は結構不器用なのさ。
器用じゃないことに気づいて、4年。
人生の三分の一は不器用に過ぎてしまった。
固くて厚い葉っぱに刻みを入れてみた。
柊のぎざぎざの葉っぱ、
縦筋の入ったやつも試した。
ピー、ピュー
ピュー、ピー、ピッピッ
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残念だけど、
ピューピーって歌うのは、葉っぱじゃなくて、
僕の口だってこと。
今年の春もやっぱり駄目みたい。
庭を見ないようにするよ、門扉の中を覗くことはなし。
張り出し窓の方を見上げたりもしない。
知らないふりして歩くのさ。
塀越しに、どこからか、草笛が聞こえてきて。。
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可愛らしいメロディーが、かすかに心に残るって魂胆。
草笛を吹きながら、
朝と夕方、
あの白いフェンスの小路を通るんだ。
口笛も悪くないけど、
わざとらしいよね、やっぱり。
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Antonio Mancini (1852-1930) Italian painter
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