14 「 エルドラドエクスプレス 」
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寒気の朝だった。
吐く息さえ、キラキラと輝いて。
白銀のマフラーをこさえてもらった気分さ。
あれは、なかなかゴージャスな朝だった。
ピシピシと軋む空気の壁に、遮二無二突っ込んだ。
相棒の荒いふいごが、前へ前へと世界を切り開いていった。
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俺は感じた。
すごい。
こいつは、すごいぞって。
胸が痛くなることも忘れて、叫びまくっていた。
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カチンカチンと音まで輝いていた。
すべてが冷たく、肌まで凍らせようとしている世界を
俺たちは刃の切っ先のように、駆け抜けた。
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すべてが氷の中に閉じ込められそうな朝だった。
だが、例外があったってことさ、
俺と相棒の心臓は、溶鉱炉のように真っ赤に
燃え続けていた。
真っ赤なスピアーになって突き進んだぜ。
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あれから何年たったんだ?
ブーツを5足は、はきつぶしたかな。
あのときの彼女は、今じゃ、
家で待っているカミサンてわけだ。
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何でだろう。
奇妙な感じさ。
あのときのことを思い出すなんて。
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俺様は気づくしかないよな。
招待状は、見逃すわけにはいかない。
そうさ。
世界はこうでなくっちゃ。。
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笑いたくなる。
おかしな気分だぜ、なあ、おまえたち。
感じているかい?
そうだよな、こんな日が来るなんて。
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すごいよな。世界が燃えている。
おまえたちも、うずうずしているだろう。
ゆっくりと帰ってもいいんだぜ, そうしたけりゃ。
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そうかい、一緒なんだな。
じゃあ行こう。
世界ってやつを思いっきり味わってやろう。
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息が上がるなんて気にせずに、
汗なんて吹き飛ばしていこう。
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炎の海原を突っ切るぞ。
目指せ、エルドラドだ。
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Munkacsy Mihaly (1844~1900) Hungarian painter
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15 「 み手をさしのべて 」
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旅は、はじまる
夢の扉は開くのですね
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終わらぬ旅
やまぬ夢が
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はじまっているのです
はじまったのですよ
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こうして出会えたのですから
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帰るのではなく
求めるのでもなく
歩きましょう、ともに。
そして、ともにありましょう。
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扉はもう閉じられないのです
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見てください、ほら
扉が消えていきます
その役目をなし終えましたから
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さあ、おたちなさい
わたしの手をにぎってください
そうすればわたしも、
あなたの手をにぎれますから
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Alexandr Ivanov (1806~1858) Russian painter
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16 「 燭台に 灯りともせば 」
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がさがさ。
ざらざら。
コンクリートみたいに、硬くないし、冷たくもない。
日干しレンガのごろごろとも違うし。。
お芋さんを入れたズーラ布かな。
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窓を開けて、頬にふれてくれるのが風。
楡の枝を、葉っぱをサワサワと
なぞったあとに、きてくれたよ。
蛇口をひねったら、ババババッと、落ちてきた。
ひんやり、どんどん、ぶつかってくるから、とても驚いて。。
あれが水ってことさ。
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パパ、ありがとう。
一本にしてくれたから、よくわかるんだ。
テーブルの上で、グラスの中で、蝋燭さんがゆれているね。
ジジジ、ジジーって、小さな声で、ここだよって。。
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ママのお誕生日だから、
パパが部屋に、来てくれると思っていた。
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ママは葉っぱや枝を握らせてくれた。
これが柳のつぼみ、
タンポポの綿毛よって。
乾いたラベンダーの花びらとか、
いろいろ教えてくれた。
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わかるようになったことがたくさん。
音楽も好きになれたし。
ロックンロールは楽しいね。
気持ちが明るくなって、とびはねたくなる。
ショパンやベートーベンもすごいなあって。。
一番のお気に入りは、フランソワさ。
穴の開いた楽譜もわかるようになったし。
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がさがさだね。
ところどころ浅く盛り上がって。
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ねえ、パパ、手紙を書いてくれない?
そして、この紙を入れて欲しいんだ。
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蜜ろうの筆で描いたよ、スラスラとじゃなかったけれど。。。
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何度も連れて行ってくれた。
街の美術館。
テルトーラとか、ブランチェ美術館さ。
絵の前に、行って、
二人でおしゃべりしながら、立っているんだ。
椅子に腰かけていたこともあったよ。
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いろいろ質問したけれど、
答えを必ず探し出してくれた。
言葉が見つからないと、
わからないときは、僕の手のひらに指でいろんなものを、
なぞってくれた。
背中になぞってくれることもあったし。。
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ママの手は不思議。
いつも、じっと握ってくれて。
困らせたかも、しれない。
たくさん、質問したから。
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ママが見ている絵のことを。
あれは何、これは何、
これはどんな形なのって。
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ある日、暖かくて、リネンのシャツを腕まくりして
行った日。
聞いてしまったんだ。
人や鳥、木、家や建物、
山やお日様の形はわかったけれど。。
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色ってわからない。
何なのって、つい聞いてしまった。
みんなが話しているのを聞いて、名前だけはおぼえたから。
レッド、ブラウン、パープル、イエロー。
クリムゾン、グレィ、ブルー。
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ママはじっとしていた。
手を握ったまま。。
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待っていたよ、ずっと。
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二回、ぎゅっぎゅっと僕の手に合図してくれた。
それから、話してくれたんだ。
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僕には思い出がないこと。
色の思い出が、僕にはないわけを。
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悲しそうな手と、声だった。
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でもね、すぐにママは明るい声を出したんだ。
それから、楽しいことが始まったよ。
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ママと決めていったんだ。
いろんな色を。
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パパには内緒にしていたけれど、ね。
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パパの色も決めたよ。
今日は言えないけれど、僕はけっこう好きだと思う、
ぴったりという感じかな。
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僕の色も内緒ね。
でも、ママの色だけは教えてあげる。
イエローローズなんだって。
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だから、この蝋の絵の上に、
色を塗ってほしいんだ。
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僕が描いたってわかってもらえるよね。
だれが手伝ってくれたのかも。
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イエローローズの手を送ってあげたいんだ。
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サインはもう入れておいたから。。
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Oh ,Mom . I miss you , so much! Daniel
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Georges de La Tour (1593~1652) French painter
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17 「 ひとときの恋 」
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かちかちんという音が部屋に響いた。
スプーンを回しながら、カップの内側にぶつけてしまう。
気を付けていたはずだった。
スプーンを皿にそっと置こうとするのだが、
指がかるくこわばっている。
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妻は、こちらを見ることはしなかった。
静かに、珈琲を飲んでいる。
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こころを向けていることだけは、わかった。
壁時計は7時38分を指している。
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夏至が近いせいなのか、南向きの窓からは、
光とともに若い鳥の歌声が流れ込んでくる。
明け方にもよく歌っては、目覚めさせてくれる鳥だった。
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「また、子供たちにお説教したのかしら?」
言葉が、笑い声をふくんだまま漂ってくる。
「お説教じゃないよ。教訓的側面を持った、
内面性への適度な刺激。。
ディスカッションを行ったってことさ。
人生の先行く先輩としてね。」
「そのわりには、夕日がまぶしそうね。」
「夕日よりも、
また、って言葉が、まぶしいやら、痛いやらさ。。」
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いくつかの言葉と話題がとりとめなく行き来し、
珈琲は空になった。
新しい一杯を用意しようとすると、
私が入れてあげると妻は言って立ち上がる。
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テラスに出て、街並みの不揃いな傾斜や、凹凸を
なぞっていると、うしろから声をかけられた。
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マンデリンの割合が少し増えているようだ。
新しく轢いてくれたのかなと聞くと、彼女はうなずいた。
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「ねえ、覚えている?
あのへんちくりんな画家さん。
駅前の雨の風景を描いた人。ほら紫が淡く入った。。」
「うん、君の好きな絵だろう?」
「新しい絵ができたみたいなの。
葉書きが送られてきたわ。」
「そうなんだ、良かったね。で、どうだった。」
「うん、いいかも。
ちょっと恋ができるかなって、ひとときの。。」
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妻はそう言いながら、一枚の葉書きをテーブルの上に置いた。
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もういちど窓の外を眺めていると、
小さな緑の影がひとつ流れた。
夕闇のオレンジ色を斜めに滑空していく。
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「恋って何なのかしら? ねえ。」
「そうだね、君と違って、絵に恋は出来ないけれど。。
すこしだけ確認できたよ。
日頃、こだわりすぎていたのかな、
内面、内面の成長ってさ。
味と香りの関係だね、珈琲の。。
そう思わないかい?」
「宇宙から見た国境みたいなものかしら。
どこからも線は見えないし。。
分離しよう, しなきゃいけないって、
対の言葉には圧迫感があるから。」
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葉書きを手に取り、しばらく眺めてみる。
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「まったく、絵に説教されていたらしょうがないね。
出来そこないの教師にとって、目に痛かったよ。」
「痛いって言ってるわりには、顔が笑っているじゃない。」
「画家さんに、お礼書いといてくれないかな。
主人が苦笑いしていますって。。」
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Bernhard Gutmann (1869~1936) American painter
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18 「 晩祷 Evening prayer 」
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さあ、なにからにしようかね。
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特別なことはありませんでしたよ。
おかげさまで腰の痛みもたいしたことはないし。
首や肩も柔らかいってほどではないけれど、
ちゃんと動いてくれますから。
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あら、そうでした。
ひとつ質問が。。
忘れないうちに質問させてくださいな。
いつも思い出すのは、あとからなのに。
今日はちゃんと覚えているから不思議ですね。
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いえね、取り入れもうまくいきましたし、
お天とうさんも、ほがらかにやさしくて、
とってもいい塩梅です。
いい秋になりそうなんですよ。
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すこしずつ変化はありますけれどね。
いいこともほどほど、つらいこともちょびちょびで。
ぜんたいとしては、まあまあですから。
ありがたいなあって。。
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たくさんありますよ。
家族や、子供たち、そしてあの人の。。
思い出って言えばよいのかしら。
背負っているわけでもないし、
きつく縛られているわけでもなく、
適当に、お付き合いしているんですけれど。。
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ときどき思うんです。
いつもではないのですよ。
少し疲れた夕方、紅茶をいただいているときや、
干したシーツをしまいこむときとかに。
まぎれこんだ緑のコガネムシを
逃がしてあげた今日の午後にも。。
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こんなにたくさんあったら、
どれか忘れてしまうんじゃないかって。。
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そんなことをときどき考えるんです。
大事なものは魂とともに運ばれていくのでしょうけれど。。
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ごめんなさい。
そのことではなくて、こちらでした。
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いえね、お願いなんです。
無理なお願いかもしれません。
聞いてくださると、とてもうれしいのですけれど。
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忘れることは、そんなにつらくはないんです。
きっと少しくらい忘れても、たくさんありますからね。
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ほら大事なことがあるでしょう。
最近気づいたんですよ。
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とっても大事なことを。
なにもかも忘れたとしても、今が残るんだわって。
ねえ、なんてありがたいことなんでしょう。
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だから、お願いしたいんです。
忘れることは、
何を忘れてもかまいませんから。
あなたさまにおまかせいたしますから。。
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ひとつだけ残してあげたいんです。
もし、残してあげれるなら。
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わたしの笑顔にしてくださいな。
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そちらは輝くような、香り漂う笑顔でいっぱいと思うんです。
笑顔が一つ足りなくても困りませんよね。
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あなたの気に入る笑顔はきっと、できませんし。
ありきたりの顔ですし。。
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でも、あの子たちは、
みんなわたしの笑顔が気に入ってくれていますから。。
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Jozef Israels (1824~1911) Dutch painter
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19 「 名もなき花 」
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青より生まれしプレラウスの花。
花瓶の水に散りて、
想いの形見を浮かべる。
紅より生まれしバッケリューレの花
花台の外に散りて、
情けの花つやを溺れゆく。
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さても、忘れがたきは、
名もなき花。
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手折られること、摘まれること拒みて、
そこにありつづけん。
招かれること、飾られることなく、
空に向けて両手を広げ、天の青さを支えんとす。
ただ朝夕を迎えては、紅の羽布を導く。
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荒れる秋の年あり。
衣替え待てず、あまたのみどり葉、大地に舞い落ちる。
痩せた枝にて浮かべる、幾夜の月。
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はてしなく雨が降りし日あり。
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はてなく降る雨に、地平線は逃げゆく。
打ちひしがれた森を背中に、丘陵は口を閉ざし、
草々は傾いでは倒る。
野の原は、藻色の湖沼と身を移す。
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闇を抱えし厚雲。
いずことも帰る道を失念し、
刻を塗り込め、はてなく雨を降り注ぐ。
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ただ一輪の花、咲き続けん。
はてを知らずか、
我を忘れてか、
しとどに重き雨に、すいと、立つ。
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日と夜を幾重にも縛りし鎖、ようようにほどけんとす。
浅き雲の谷間より一条のうすき光
雨やみの刻つげんとして、薄闇の中に丘陵の森を求むる。
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さても、忘れがたきは、名もなき花。
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夢に現れし一輪の
森に抱かれし人の胸に咲くという
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Nicolae Grigorescu (1838~1907) Romanian painter
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20 「 Song of wings 」
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お休みなさい。
すてきな夢を。
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あなたの笑顔は、しずかな福音。
しぐさは、鐘の音はこぶ、風のよろこび。
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寝息は、光をいざなうバラ色の窓。
あなたの夢は、しあわせの塔を目ざめさせる。
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お休みなさい。
すてきな夢を。
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あなたの笑顔は、しずかな祝福
しぐさは、愛の歌はこぶ、翼のよろこび。
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寝息は、祈りをいざなう虹色の風。
あなたの夢は、澄んだ空をやわらかく輝かせる。
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目ざめたときに、
しあわせに包まれていますように。
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いつか、ひとりの人を大事にしてあげて。
きっと忘れていたものに出会えるから。
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翼をなくしても
あなたに会えるのをまっている人。
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あなたは思い出すの。そして、気づいてくれる。
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その人のこころのなかに、
真っ白なつばさが生まれていることを。
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わたしがそうだったように。。
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お休みなさい。
すてきな夢を。
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Gabriel Ferrier (1847~1914) French painter
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「 Walking in the pictures 2 」
Mockingbird
2013 autumn