第一章 「北風と太陽」
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昔々、村はずれの一軒家で、
男が物語を書いていました。
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第一章、第二章と順々に進んでいましたが、
物語の中盤にさしかかった頃、
ひとつの悲しみが待ちうけていました。
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ささやかな落とし穴が用意されていたのです。
そろそろ私の出番かしら?と。
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ペンがぴたっと膠で貼り付けられたように、
原稿用紙の上で固まってしまいます。
まったく前に進めません。
畑に立ちつくす案山子になってしまったと、
男はため息をつきながら呟いています。
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季節は冬でした。
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~~ 1 ~~
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寒さと冬の大好きな男は、
こんな素晴らしい季節に、何故書けないのかと。
意気消沈してしまいます。
いつもなら、襟を立てて、
さっそうと北風と対峙するのに。。
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どうも、うまくいかないのです。
男はひとつの物語を思い出しました。
北風と太陽のお話です。
旅人の衣服をめぐる競争で、
北風が、太陽に負けてしまいます。
男にとって、こんなに理不尽で、くやしい話はありません。
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そこで、一念発起することに。。
北風の太陽に勝る強さや、
冷たく輝くその美しさを、
物語にしようと、毎日毎日、ペンを握るようになります。
書いては消し、書きあげては、破り捨て。
なかなか、上手く書けません。
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~~ 2 ~~
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こんなはずではと、
男は、ますます、元気をなくしていきました。
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あるころから、ドアの外に花が一本ずつ
届けられるようになりました。
毎日、一輪ずつ花が届けられます。
不思議なことに、その花は枯れません。
男は、部屋の中に花を入れて毎日水をやり、眺めています。
だんだんと、部屋の花の数が増えてきました。
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男は、ふと、気づきました。
少しずつ、自分が薄着になっていたことに。
そして、北風の物語を書く気持ちが、
消えてしまったことに。
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なぜ、北風が太陽に勝つのか、
太陽が北風に勝ったのか。
もうそれは、どうでもいいことになっていました。
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~~ 3 ~~
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久しぶりに外に出てみると。
あたりは、お花畑になっていました。
そして、むこうに、
お花の世話をしている人が、見えました。
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男が、そちらへ歩いて行ったのか、
どうかは定かではありません。
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世の中には、終わりのないお話もありますし、
夢がさめて、続きを見れない夢も、ありますから。
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