01 「 News 」
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伝えたいのさ
そのために今日がある
伝えることがあるから
僕はここにいる
なぜなんて、聞かないでくれ
それはきっと、僕が誰?と、聞かれることに等しいから
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なぜ生まれてきたのか
どうしてこんな姿なのか
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そこにあるのは、巨大な岩山なのか
大きいだけの、ただの石ころなのかい?
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身にまとう、荒々しい光の風
あふれる虹の、冷たい息づかい
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僕は伝える
たったひとつのことを
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誰へ、何故、
どんな風になんて、知ったことではない
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僕は伝える
すべてに伝えるのさ
ありとあらゆるものに
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昨日に、それから明日にも
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忘れられないニュースたちに
近づきたくないニュースにも
見たこともない、
会うこともないだろう、
永遠っていう名のニュースにもね。
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ひとつ
ひとつだけのニュース
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生まれた!
世界が生まれたぞ!
今日が生まれたぞ!って、ね。
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Mikalojus Konstantias (1875-1911) Lithuanian painter
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02 「 事件簿 」
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定かではない。
確証はないのだ、ワトソン君。
だが何かがひっかかるんだ。
この手紙の文面と、中に入っているニガヨモギの種が。。
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いやね、事件は起きていない。
これからも起きないかもしれない。
僕自身、そう願っているんだよ。
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ここに「銀の詩人」たちの会報が4冊ある。
ほら、未亡人が個人公開していた亭主の首。
あの紛失事件で、役に立った資料さ。
君も書庫で見かけたことがあるだろう。
ロアノーク島のクロアタンのくだりはさておき。。
それなりに、謎の深さが測れたような気がするのさ。
立ちのぼる煙の重さではなく、
クイーンベッシーの身勝手な憂鬱でもなくね。
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アンダーマーケットに沈み、潜伏している
書類、書籍の捜索を、何度か依頼したことがあるが。。
ジョナサンヒッグスは、手数料をふっかけることもなかった。
実直な男だし、大言壮語もしない。
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そんな彼が、
わざわざ手紙を書いてよこした。
金釘がのたくった、判読しかねる文章でね。
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明日の朝一番で列車に乗ろうと思う。
君には週末の約束があったけれど、
船遊びはまたの機会に、だね。
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僕の方は、一足早く、ボートに乗ることになるかな。
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「深夜に鳴り響く、岬の鐘。
ひび割れた陶器が、ハンマーで粉々に砕かれていく。
無数の音色に岸辺が封鎖され、闇の唇が縫い付けられていく。
鉛色に膠着した世界の表面が、
指紋がべったりと付着しそうに、金属化しかけている。」
という、
ヒッグスの不可思議な報告。。
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修辞上のミスが多い文章が、妥当なものなのか。
何者かの政治的、科学的策略。。
純朴なる田舎者が生み出した、故なき地域的妄想。
それとも
単純かつ奇っ怪なる偶然なのか、確かめてこようと思う。
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ファイルの名前だけは、用意した。
ワトソン、君が気に入るかは判然としないが。
「鏡の世界の招待状」
これで、保管しといてくれたまえ。
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ハドソン夫人には、コーンウォールの方に、
数日出かけてくると言ってある。
ちょっと興味深い
新種のミツバチが見つかったからと、ね。
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Nikolay Dubovskoy (1859-1918) Russian Painter
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03 「 春一輪 」
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滴るものは陽のしづく
花ひらに幽かにとどまる、春のきらめき。
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林床から、すらりと伸びて、
薄緑の木漏れ日に、はにかみ笑う一輪の花。
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スプリング、エフェメラル
目覚め前の、短い夢
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静かなる華やぎは、いつかすぎゆく
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花ひら落とし、みどりの帆をかかげ、
よろこびの春より出で、いのちの海原を渡りゆく。
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夏のまぶしき光を受け
土色に焦げし帆が、焼け落ちる、そのときまで。
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枝々から、葉ずれの歌が聞こえなくなる頃
秋がいずこともなく尋ねる。
「たれぞ知らん。
淡き花、一輪草の追憶を、」と。
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雪が音もなく降りしきる、凍てついた朝、
冬がようやく甘枯れた声で答える。
「わが体、大地の下にて、
儚い春の夢を、待ち続けている、」と。
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H.A.Brendekide (1857-1942) Danish painter
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04 「 P117のめぐり逢い 」
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薄いかしら
いいえ、ほどよいボリュームよ。
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長すぎるとは思えない、
短すぎるとも言えなくて。
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それぞれのページに書かれた、
お茶目な移ろいと、芳しいフェアーウェル。
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ちょうどいいの。
振り返るのに、
読み終わるころには、
始まりのページが恋しくなるでしょうから
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一日に1行
一年に1ページかしら。
それとも
ためいき一つに。
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さびしくはないわ
だれかが118ページをめくってくれるから。
そこには新しい物語が書かれていて。
ロマンスは続くの、
だれかがページをめくるたびに。
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どこかの世界では、
愛があふれすぎて、
哀しみが、出番を待つ笑顔を並べていくのに大忙しみたい。
あふれ落ちた小さな愛が、言い争っているから。。
そこは僕の椅子、
いいえ私のテラスよ、おどきなさいって。
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毎日のように、毎年のように。
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およしなさいな、あなたたち。
ものには順番があるのだから、
あわてなくてもいいの。
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13と9
悲しみ色に染まった数字がふたつ。
掛け合わせると、なんて野暮なことは考えないで。。
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1ページずつばらし、
短冊にして流しましょうか。
あの青白く横たわる川を、もう少し輝かせるために。
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こちらは
ヴェガ
こと座の読み人知らず。
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117ページの小さな光の本を、お届けします。
この星を見上げている、すべての人に。。
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Phoebe Anna Traquair (1852-1936) Scotish painter
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05 「 雨の街角 」
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ブルーサファイアに輝く瞳
流れるような金髪
御者付きの4頭馬車
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優雅にエスコートしてくれる、白手袋の紳士
ひばりの歌声が舞い上がる、5月の草原
幸せをくちびるに浮かべて、
夜更けに見上げる、シューティングスター
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手に入らない
手に入るのかしら
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楽園の孔雀に、なれるかわからないけれど
翼だけは、思いっきり広げるわ
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どこへ
どこから
どこまでも、かもしれないけれど
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笑っている
泣いている
叫んでいるだけかもしれないけれど
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こんな人生なんて、口が裂けても言わない
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永遠
なんてつまらない言葉でしょう
こだわっているから不幸が忍び寄るの
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そう、蹴飛ばしてあげるわ
遠く
後ろ姿も見えないくらい遠くへ
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午後が、街中で、踊り出している
風の精霊、雨の天使たちの、笑い声が鳴り響くわ
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いつか思い出してね
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涙の昨日は
明日と手を取り合って、隠れてしまう
不思議な街があったことを
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誰かがいて、
誰もいない、そんな街よ
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Gaetano Bellei (1857-1922) Italian painter
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疑い深い人。
気まぐれ、偶然かもしれない?
だから、あなたは わたしたちより賢いのね
明日のことを
今日よりも心配できるのだから
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心変わりなんて、セリフ
あなたはまじめな顔で、今まで何度使ったのかしら。。
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私たちはこう言うの。心が踊りたがっている、て。
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枯れ葉だってウインクしながら、手を取ってくれるわ
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明日のあなたに聞いてみて
そしたらきっとわかる
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東風
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西風
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北風
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わたしたちがどの風と遊んでいたのか
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きっと忘れているはず
そして、いつか気づくの
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1000年は輝き続けるものがあるってことに
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☆☆☆
期待されては、困るのですが。。
逆ですね。
ニコッとしてもらえるのではと、
私が期待しているのですから。
Mockingbird
☆☆☆
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Gaetano Bellei (1857-1922) Italian painter
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06 「 魅惑のコスモス 」
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そのままにしておいてくれたまえ。
しばらくでいいから。
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眺めている?そうかもしれないが、違うのかもしれない。
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何がどうというわけではないのだが。
君、知っているかい?
お隣の羊のパッゾーニが、飲み込んでしまった。
奥さんが大事にしている輝く小さな赤い石、
それがついた指輪を何かの拍子に。。
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何故、そんなことが起きたのか、
どうしてわかったのか。。
それから、そう。
パッゾーニがこれから、どうなるのか?
それは、ささやかな運命というもの。
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カラスが、光り物を収集したりするじゃないか。
あれも、それなりにわけがあるんだろう。
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で、ついつい思ってしまうんだ。
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光るものへの単純な反応なのか、それとも。
イソップだよね。
過剰な装飾、変身願望のカラスをお話にしたのは。。
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我が家の名犬バロンは、囓ることに興味はあっても、
光り物にはさほど興味を示さない。
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さきほど思いついたんだ。
多くの女性って存在は、
羽根のついたものも好きかもしれないなあと。
ほら、愛らしいエンジェルの
柔らかそうな白い羽根とか。。
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あの人たちと、鳥さんの共通項は、意外と多いのかな、と。
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ついつい思ってしまう。
世界から、光り輝く小さな石がすべて消えてしまったら、
指輪は残るのだろうか。
イヤリング、ネックレス、ティアラ。。
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何か、別のものを見つけてくるのかな。
光る石に代わる、素敵な、大事なものを。。
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いや、もちろん、君の考えを聞こうなんて、
物騒、失敬なことは考えていない。
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この世の中には、必要なものがあるからね。
ぼーっと世界をながめたくなる、小さな謎は、
人生を退屈なものにしないためにも、それなりに必要だし。
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すまない、君の貴重な時間を割かせてしまって。
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そういうわけで、お願いだけれど、
このままにしてくれないかな、しばらくのあいだ。
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宇宙の真理、
コスモスの、コミカル、精妙、魅惑な、
バランス感覚を味わいたいんだ。
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Kuzma Petrov Vodkin (1878-1939) Russian painter
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07 「 ちいさな説得 」
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「ねえ、ベッキー、君も知っているかもしれないけれど
人って、立つ位置が重要なんだ。
ほら、立場が人を成長させると言うじゃないか。」
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「トム。
先週、いやなことがあったの。
風が運んだゴミが目の中に入って、目をパチパチとしたら。
向かいのテーブルに座っている男の子がニコって笑いながら、
ウィンクしてきたわ。
私はあわてて、右の手で目をごしごしとこすったの。」
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「君はときどきトンチンカンなことを言い出すね。
希望の川が広い海に流れ込むようなことを、話しているのに。
ほら志ってことさ。
近すぎて見えにくいものも、距離をおくと、
全体がよくわかるじゃあないか。
人生の、冒険の計画を立てるなら、
まず世界を知らなくちゃ行けない。。
わかるかな?アムンゼンやスコットみたいにね。
用意周到って、大事なんだぜ。」
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「ねえ、トム。
靴の調子が悪いの。
紐が切れかけていているみたい。直してくれない?」
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「切れたわけじゃないだろう?
切れたら、それから結んであげるよ。
物には順番があるじゃあないか。
今、僕の両手は、後ろで組み合わされているのさ。
提督や将軍たちみたいに、堂々と胸を張り。。
これで遠眼鏡でもあれば、最高なのにな。」
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「トム。
ポケットに一個だけガムが入っていたわ。
青リンゴ味よ、一緒に食べない?」
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Seymour Joseph Guy (1824-1910) American painter
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